注記:複数集合版における \(P(G)\) と \(k\_G\) の読み方
複数集合版では、良手として評価したい条件集合を \(W\_1, W\_2, \dots, W\_m\) とし、それらを結合した総合集合を \(G\) とします。
OR結合なら、
です。\(P(G)\) は、総合集合 \(G\) に含まれる初手の発生率を表します。
複数集合版は単一集合の評価も含んでいる
「複数集合版」という名前ですが、必ず複数の集合を使う必要はありません。条件集合が \(W\_1\) だけなら \(G = W\_1\) なので、
です。
したがって、単純な一条件の確率から、複数条件を統合した総合集合まで、同じ枠組みで評価できます。\(k\_G\) も同様に、\(G = W\_1\) なら一条件に対する \(k\)、複数条件を統合した \(G\) なら総合集合に対する \(k\) として読めます。
\(\Delta P(G)\) は、局所的な変化を統合した結果である
手札パターン全体を、互いに重ならない領域 \(R\_1, R\_2, \dots, R\_n\) に分割します。ここでいう領域とは「各群を何枚引いたか」の組み合わせのことなので、この分割は構築を変更しても共通に使えます(採用枚数が変わっても、パターンの種類そのものは変わらないため)。
このとき、
であり、同じ分割を改善前後に適用すれば、
となります。局所領域には、たとえば次のような手札が含まれます。
- 初動条件だけを満たす手札
- 初動と貫通条件を同時に満たす手札
- 初動と誘発条件を満たす手札
- 別の展開ルートで成立する手札
- 複数の条件集合に重なって含まれる手札
\(\Delta P(G)\) は、こうした各領域で生じた改善と悪化をすべて統合した結果です。したがって \(\Delta P(G) > 0\) なら、自分が \(G\) として定義した「良手全体」の確率質量は純増している、と解釈できます。
ただしこれは「すべての局所集合が改善した」という意味ではありません。ある領域の改善が別の領域の悪化を上回った結果として、総合集合がプラスになる場合もあります。
また、単に \(G\) を広く定義すればよいわけでもありません。弱い手札や本来評価したくない手札まで \(G\) に含めれば、\(P(G)\) の意味そのものが薄くなります。重要なのは集合の広さではなく、採用判断で評価したい手札を、どこまで適切に \(G\) が表現しているかです。
OR結合では、改善の一部がカバー範囲に吸収される
これは複数集合版を使ううえで、最初に理解しておくべき挙動です。
OR結合では、すでに別の条件によって \(G\) に含まれている手札が、さらに別の条件も満たすようになっても、総合集合のカバー範囲は増えません。
具体例で示します。40枚デッキを次のように分けます。
| 群 | 役割 | 枚数 |
|---|---|---|
| \(A\) | ルート1初動 | 8 |
| \(B\) | ルート2初動 | 8 |
| \(C\) | 誘発 | 10 |
| \(D\) | その他 | 14 |
条件集合は次のとおりです。
変更:その他1枚 → ルート1初動1枚(\(A: 8 \to 9\))
| 集合 | 改善前 | 改善後 | \(\Delta\) |
|---|---|---|---|
| \(W\_1\) | 69.40% | 74.18% | +4.78pt |
| \(W\_2\) | 69.40% | 69.40% | ±0.00pt |
| \(W\_1 \cap W\_2\) | 45.25% | 48.69% | +3.44pt |
| \(G = W\_1 \cup W\_2\) | 93.54% | 94.89% | +1.35pt |
\(W\_1\) は 4.78pt 改善していますが、そのうち 3.44pt は \(W\_1 \cap W\_2\)、つまり元から \(W\_2\) 経由で \(G\) に入っていた手札の増加でした。カバー範囲としては何も増えていません。
結果、総合集合の純増は 1.35pt。改善の約72%が吸収されています。
これは \(P(G)\) の欠点ではなく、全体へ情報を圧縮した当然の帰結です。
\(k\_G\) が効きにくくなる理由
上の例で \(k\) を見ると、次のようになります。
| 集合 | \(\Delta\) | \(\sigma\) | \(k\) |
|---|---|---|---|
| \(W\_1\) | +4.78pt | 4.61pt | 1.04 |
| \(G\) | +1.35pt | 2.46pt | 0.55 |
ここで注意すべきは、\(\sigma\) も同時に小さくなっていることです。
は \(P = 0.5\) で最大になるため、OR結合で \(P(G)\) が \(0.5\) から離れて大きくなるほど \(\sigma\) は縮み、これは \(k\) を押し上げる方向に働きます。
しかしこの例では、二つの要因が逆向きに働いています。
| 変化 | \(k\) への影響 | |
|---|---|---|
| \(\sigma\) | 4.61pt → 2.46pt(53%に縮小) | 上げる |
| \(\Delta\) | 4.78pt → 1.35pt(28%に縮小) | 下げる |
\(\Delta\) の圧縮の方が大きいため、差し引きで
へ下がりました。
したがって、
総合集合まで統合すると、\(\sigma\) が小さくなる効果よりも \(\Delta\) が吸収される効果の方が大きくなりやすく、\(k\_G\) は個別集合の \(k\) より小さく出る傾向があります。
これも欠点ではなく、「良手全体としては、そこまで大きく動いていない」という事実を正しく表しています。
だからこそ、小さな \(\Delta P(G) > 0\) には意味がある
上の性質を裏返すと、実務上は次のことが言えます。
OR結合した \(G\) で \(\Delta P(G) > 0\) が出たなら、その増分は既存ルートと重複しない「新規に拾えた手札」です。
既存ルートで元々カバーできていた手札をいくら厚くしても、\(\Delta P(G)\) は動きません。動いたということは、どの条件でも拾えていなかった領域に届いたか、全ルートに共通して効いたか、のどちらかです。
そのため、
- 同じ 1pt の改善でも、単一集合の 1pt より、総合集合の 1pt の方が情報量が大きい
- 採用コストがほとんどなく、他の条件も同等であれば、\(k\_G\) が小さくても採用理由になり得る
と考えられます。\(k\_G\) が小さいことは「無視してよい」という意味ではなく、「他の採用理由を優先してよい余地が大きい」という意味です。裏を返せば、他に優先すべき理由が特に無いなら、小さな純増を取っても構いません。
総合集合だけでは、改善が起きた場所は分からない
\(P(G)\) と \(k\_G\) は全体評価には便利ですが、改善がどこで発生したかは示しません。
- \(W\_1\) は大きく改善したが \(W\_2\) は悪化した
- \(W\_1 \cap W\_2\) の重複領域だけが増えた
- \(W\_1\) は増えたが、その多くが元から \(W\_2\) にも含まれていた
これらは総合集合の数字だけでは区別できません。原因を調べるには、\(W\_i\)、\(W\_i \cap W\_j\)、\(W\_i \setminus W\_j\) などを個別に確認する必要があります。
実際、総合集合では小さく見える改善でも、特定の強い手札領域に限定すると大きな変化が起きている場合があります(上の例では \(G\) の \(\Delta\) は +1.35pt でしたが、\(W\_1 \cap W\_2\) は +3.44pt 動いています)。
その意味で、総合集合と局所集合は競合する評価ではなく、用途が異なります。
採用判断での使い方
評価したい利益と不利益を \(G\) が十分に表現できているなら、\(\Delta P(G)\) は良手全体が最終的に増えたか減ったかを見る指標として使えます。
| \(\Delta P(G)\) | 意味 |
|---|---|
| \(> 0\) | 定義した良手全体は増加 |
| \(= 0\) | 定義した良手全体は不変 |
| \(< 0\) | 定義した良手全体は減少 |
一方で、
- \(G\) に含めていない事故パターン
- 特定対面での弱さ
- 展開後の出力差
- 採用枠の競合
- 同じ \(G\) 内部での手札の質の差
などが存在するなら、\(P(G)\) だけで最終判断することはできません。\(\Delta P(G)\) を採用判断に使う際は、自分が評価したい利益と不利益を、その \(G\) がどこまで表現できているかを先に確認してください。
個別集合と総合集合の使い分け
| 確認したいこと | 適した評価 |
|---|---|
| 一つの条件の発生率がどう変化したか | \(G = W\_1\) とした \(\Delta P(G)\)、\(k\_G\) |
| どの条件が改善・悪化したか | 個別集合 \(W\_i\) の \(\Delta\)、\(k\_i\) |
| 重複領域・固有領域で何が起きたか | \(W\_i \cap W\_j\)、\(W\_i \setminus W\_j\) など |
| 良手全体が最終的に増えたか | 総合集合の \(\Delta P(G)\) |
| その全体差が \(N\) 戦という尺度でどの程度か | 総合集合の \(k\_G\) |
要点
個別集合の \(\Delta\) と \(k\_i\) は「どこが変わったか」を診断するために使い、総合集合の \(\Delta P(G)\) は「評価した良手全体が最終的に増えたか」を確認するために使います。
OR結合では改善の一部がカバー範囲に吸収されるため \(k\_G\) は小さく出やすくなりますが、その分、総合集合で出た \(\Delta P(G) > 0\) は「既存ルートと重複しない純粋な上積み」を意味します。
\(k\_G\) の大小は、その純増分を想定対戦数 \(N\) という尺度に照らして、他の採用理由とどちらを優先するかを判断するために使ってください。