なぜ採用枚数論争はいつも泥沼化するのか
ネット上では、日々、
「このカードの採用枚数は何枚が正解か」
「こんなゴミカードが入っているから弱い」
といった採用枚数・デッキ構築論争が繰り返されています。
なぜ、これらの議論はいつまで経っても決着がつかないのでしょうか。
理由の一つはシンプルです。
「そのデッキで何戦戦うのか(想定対戦数 \(N\))」という前提が抜け落ちているからです。
たとえば、友達と10戦程度しか遊ばないカジュアルプレイヤーを考えます。
デッキに趣味のカードが1枚入っており、それによって手札品質がわずかに低下していたとしても、10戦という範囲では、その数%の差を構築上どこまで重視するべきかが問題です。
しかし10戦程度では実際の結果のブレも大きいため、
その数%を削るために、好きなカードまで抜く必要が本当にあるのか
という話になります。
むしろ、そのカードを導入するとデッキの最大出力が上がり、それが目的なのであれば、採用する価値は十分にあります。 一方で、同じデッキを300戦、1000戦と使うのであれば話は変わります。
数%の差であっても、試行回数を重ねれば期待値として積み重なっていきます。 1戦あたりでは小さく見えた差でも、長期間使用するデッキであれば、構築上無視しにくい差になる可能性があります。
つまり、
「何%違うのか」だけでは、採用枚数を決めるには情報が足りません。
その差を、
何戦の範囲で評価するのか
まで決めて、初めて議論できます。
- 大会で50戦程度使うデッキなのか。
- マスターデュエルで300戦使うのか。
- 長期間レート戦を続け、1000戦以上使うのか。
想定する対戦数によって、同じ確率差に与えるべき重みは変わります。
だから、
「1%でも高い方が絶対に正しい」
「3%しか違わないならどうでもいい」
という議論は、どちらも \(N\) がなければ成立しません。
統計を構築判断に使うのであれば、想定する試行回数を前提に置かなければ話が始まらないのです。
これまで多くのTCGプレイヤーが、確率や採用理由をインテリっぽく語りながら、
- 何戦使うのか
- 重ね引きのペナルティはいくらなのか
- 不要札が何枚混ざっているのか
- その構築変更で実際に何%変化するのか
といった条件を曖昧なまま語り合ってきました。
乱暴な言い方をすれば、私を含め全員が、
「感覚だけで語るゴリラ」
だったわけです。
誰もが数学的根拠を持たず、いい加減に確率論を使っていたわけです。 ゲーマーの鑑ではありますが、恥ずかしい限りです。
確率論者の罠
これまでの確率論でも、
初動札を引く確率は85%より95%の方が良い
ということまでは分かります。 高い方がいいに決まっています。
しかし、本当に構築で知りたいのは、その先です。
- では90%なら十分なのか。
- 91%まで上げるべきなのか。
- 95%を目指すべきなのか。
- そのために別のカードやギミックを犠牲にする価値はあるのか。
「高い方が良い」だけでは、採用枚数を決めることはできません。
問題は、
どこまで確率を追えばいいのか
です。
そして、その問いに答えるためには、
そのデッキを何戦使うのか
という想定対戦数 \(N\) が必要になります。
本稿で \(N\) を最初に決めるのは、このためです。
確率を最大化すること自体を目的にするのではなく、
自分が実際に戦う範囲で、どこまで最適化する価値があるのか
を決める。
これまで曖昧だった「もう十分」と言える地点に、一つの基準を与えることが、本稿の狙いです。
なぜ、誰もこれをやらなかったのか?
遊戯王は四半世紀以上続いているゲームです。
それなのに、
「採用枚数による確率差を、想定対戦数まで含めてどう評価するのか」
というところまで整理された構築論を、私はほとんど見たことがありませんでした。
贅沢を言えば、
もっと早く誰か言語化しておいてくれよ
とは思います。
一度数字にしてしまえばかなり見通しがよくなります。
少し不思議なのは、遊戯王では長年にわたって採用枚数や初動率が議論されてきたにもかかわらず、
「では、どこまで確率を追えば十分なのか」
という問いには、意外なほど明確な基準が見当たらないことです。 もちろん、私が知らないだけで、同じような考え方はどこかにあるのかもしれません。
ただ、少なくとも私は、確率上の改善幅と想定対戦数 \(N\) を結びつけて、「この差をどこまで構築上重視するべきか」を明示的に評価する構築論を見たことがありませんでした。
ならば、自分で考えてみよう。
……というところまではよかったのですが、まさかプロでもない私が、寝不足になりながら計算ツールまで作ることになるとは思っていませんでした。
しかも、無料です。
競技や商業の世界では、自分だけが持っている知見を公開しないことにも合理性があります。構築上の優位性そのものが価値になるなら、わざわざ他人に教える必要はないでしょう。しかし私は、公平な立場で行う試合こそ、競技だと考えます。
それに私はこうして得られた考え方は、できるだけ共有した方がいいと思っています。一人で持つのはつまらないことです。一人で使って終わるより、誰かが使い、検証し、別の考え方へ発展させていく方が面白い。
少なくとも、この理論と計算ツールについては、そういうものとして公開することにしました。この記事を書くのも楽しかったですしね!
もちろん、一人で検証しているので、考え方や計算に間違いがある可能性もあります。
そのときは――まあ、ゴメンね、ということで。