デッキ枚数の評価

デッキ枚数そのものに正解を置かない

遊戯王では、デッキ枚数を40枚に抑えることが強く推奨されることがあります。

その理由は明確です。

デッキ枚数が少なければ、固定枚数で採用している初動札、誘発札、制限カードなどを引ける確率は高くなります。

したがって、

同じカード構成を比較するのであれば、デッキ枚数が少ない方が特定のカードを引きやすい

という事実は変わりません。

しかし、本稿では、

40枚であること自体をデッキ構築上の評価基準とはしません。

デッキ枚数も、カードの採用枚数と同じく、構築を構成するパラメータの一つとして扱います。

重要なのは、

デッキ枚数を変更したことで、手札品質がどのように変化したか

です。

デッキ枚数を増やすと何が起こるか

たとえば、40枚のデッキにカードを3枚追加して43枚にしたとします。

このとき起きているのは、単純な

「デッキが3枚増えた」

という変化だけではありません。

固定枚数で採用されているカードについて、

  • 初動札を引く確率
  • 誘発札を引く確率
  • 貫通札を引く確率
  • 引きたくないカードを引く確率
  • 同じカード群を重ねて引く確率

などが同時に変化します。

つまり、デッキ枚数の変更とは、

初手に現れるハンドパターン全体の確率分布を変更する操作

です。

これは、あるカード群 \(A\) を7枚から8枚へ変更することと、本質的には同じ構築変更です。

どちらの場合も、変更前後で手札の確率分布が変化します。

例:40枚だから必ず引きやすいわけではない

たとえば、初手5枚で初動札を1枚以上引く確率を比較します。

40枚デッキに初動札を7枚採用した場合、

\[ P(A\geq1)\approx63.93\% \]

です。

一方、44枚デッキに初動札を8枚採用した場合、

\[ P(A\geq1)\approx65.29\% \]

となります。

つまり、この条件ではデッキ枚数が4枚多い44枚デッキの方が、初動札を引ける確率は約1.36パーセント高くなります。

これは、

デッキ枚数だけを見て、40枚の方が確率的に優れているとは判断できない

ことを示す簡単な例です。

40枚から44枚へ増やすことで特定のカードは薄くなりますが、その4枚の中に新しい初動札や有効札を追加するのであれば、別の確率は逆に改善することがあります。

したがって比較すべきなのは「40枚か44枚か」ではなく、それぞれの構築でどのような手札が、どの程度の確率で発生するかです。

デッキを増やす目的

では、そもそもデッキ枚数を増やすことには、どのような目的があるのでしょうか。

一般的には、大きく次のような理由が考えられます。

ギミックやリソースを増やす

デッキ枚数を増やせば、40枚に収めるためには削らなければならなかったカードを残すことができます。

たとえば、

  • サブギミックを追加する
  • 貫通札を増やす
  • 後手用カードを増やす
  • 長期戦で使用する後続やリソースを増やす
  • 展開に必要なカードを無理に削らず採用する

といったことが可能になります。

ここで重要なのは、

デッキ枚数が多いこと自体が利益なのではなく、増えた枠に採用できるカードから利益を得ている

という点です。

40枚から44枚へ増やした場合、その4枚に十分な価値があるのであれば、デッキ枚数を増やすことには構築上のメリットがあります。

引きたくないカードを薄める

もう一つ、デッキを太らせる代表的な理由として、

引きたくないカードをデッキ全体の中で薄める

という考え方があります。

たとえば、

  • サーチ先としてデッキに残しておきたいカード
  • 展開途中でデッキに存在してほしいカード
  • 素引きすると機能しにくいカード

などです。

これらの採用枚数を固定したままデッキ総数を増やせば、初手に引いてしまう確率は確かに低下します。

しかし、本稿で実際に確率差を確認すると、少数の引きたくないカードを薄める効果は、デッキ枚数をかなり増やさなければ大きくなりません。

たとえば、引きたくないカードが1枚だけ存在する場合、初手5枚でそのカードを引く確率は、

  • 40枚デッキ:12.50%
  • 60枚デッキ:約8.33%

です。

40枚から60枚まで20枚増やしても、その差は約4.17ポイントです。

ここで、本稿の想定対戦数 \(N\) の考え方を使います。

50戦使用すると仮定した場合、40枚デッキで不要札を初手に引く確率

\[ p=0.125 \]

に対する実現率の標準偏差は、

\[ \sigma = \sqrt{ \frac{0.125(1-0.125)}{50} } \approx 0.0468 \]

約4.68ポイントです。

したがって、40枚から60枚へ増やしたことによる約4.17ポイントの改善幅に対する採用係数は、

\[ k = \frac{0.0417}{0.0468} \approx 0.89 \]

となります。

つまり、

50戦程度の想定では、40枚から60枚まで大きくデッキを太らせても、不要札1枚を薄める効果は本稿の基準で1σに届きません。

期待回数で見ても、

\[ 50\times0.0417 \approx 2.1 \]

なので、50戦のうち不要札を回避できる期待回数の差は約2回です。

もちろん、4.17ポイントという確率差そのものが消えるわけではありません。

対戦数が増えれば、この差を重視する理由も大きくなります。

たとえば同じ40枚と60枚の比較でも、

想定対戦数 \(N\) 採用係数 \(k\) の目安
50戦 約0.89
100戦 約1.26
300戦 約2.18

となります。

つまり、不要札を薄めることの価値も、想定対戦数によって変化します。

また、実際には40枚から60枚まで増やすような極端な変更ではなく、40枚から42枚、44枚、45枚程度の変更が多いでしょう。

その場合、不要札1枚を薄める確率差はさらに小さくなります。

さらにデッキを太らせれば、引きたくないカードだけでなく、固定枚数で採用されている初動札、誘発札、制限カードなども同時に引きにくくなります。 同じ構築変更でも、「大会で50戦使うデッキ」と「年間1000戦使うデッキ」では、確率差に与えるべき重みが違います。

デッキ枚数を増やすのであれば、不要札の希薄化だけではなく、追加できるギミックや有効札、重ね引きの変化など、他のメリットと合わせて評価する必要があります。

重ね引きを減らす

同じ理由で、特定のカード群を2枚以上引く確率も下げることができます。

前章で導入した \(\lambda\) が高く、

「1枚は欲しいが、2枚目以降はあまり欲しくない」

というカード群が存在する場合、デッキ枚数を増やすことで重ね引きを抑えられることがあります。

これは、引きたくないカードを薄めることと同じく、デッキ全体の中で対象カード群の濃度を下げることで得られる効果です。


このように、デッキを増やすことには、

  1. 追加したカードやギミックから利益を得る
  2. 引きたくないカードを薄める
  3. 重ね引きを抑える

という代表的なメリットがあります。

しかし、同時に固定枚数で採用されている初動札、誘発札、制限カードなども引きにくくなります。

したがって本稿では、

デッキを増やすこと自体を良いとも悪いとも評価せず、増やすことで得られる利益と、薄くなることで失う利益を比較します。

この比較によって、初めてそのデッキ枚数変更が有効だったかを判断できます。

デッキを太らせるメリットとデメリット

デッキ枚数を増やすと、固定枚数で採用されているカードは基本的に引きにくくなります。

これは、

  • 引きたいカード
  • 引きたくないカード
  • 重ねて引きたくないカード

のすべてに同時に起こります。

したがって、デッキを太らせることにはメリットとデメリットの両方があります。

デメリットの例

  • 初動札を引きにくくなる
  • 強力な制限カードを引きにくくなる
  • 固定枚数の誘発札や貫通札を引きにくくなる

メリットの例

  • 引きたくないカードを引きにくくなる
  • 重ね引きを減らせる
  • 新しい有効札やギミックを採用できる
  • 特定のハンドパターンの発生率を改善できる場合がある

したがって、

デッキ枚数を増やしたから弱くなった

とも、

引きたくないカードを薄めたから強くなった

とも、それだけでは判断できません。

重要なのは、その変更によって手札全体がどう変化したかです。

デッキ枚数も構築変更として比較する

本稿では、デッキ枚数の変更についても、これまでと同じ方法で評価します。

構築変更前を、

\[ (X_{\mathrm{before}},A_{\mathrm{before}},B_{\mathrm{before}},C_{\mathrm{before}},\ldots) \]

構築変更後を、

\[ (X_{\mathrm{after}},A_{\mathrm{after}},B_{\mathrm{after}},C_{\mathrm{after}},\ldots) \]

とします。

ここで \(X\) はデッキ枚数です。

たとえば、

\[ X=40\rightarrow43 \]

という変更を行った場合、その変更によって各ハンドパターン

\[ P(a,b,c,d,e) \]

がどのように変化したかを確認します。

そして、プレイヤーが定義した望ましい手札集合 \(G\) について、

\[ P_{\mathrm{before}}(G) \]

と、

\[ P_{\mathrm{after}}(G) \]

を比較します。

改善幅は、

\[ \Delta = P_{\mathrm{after}}(G) - P_{\mathrm{before}}(G) \]

です。

つまり、

40枚と43枚のどちらが優れているかを直接比較するのではなく、それぞれの構築が望ましい手札をどの程度作るかを比較します。

重ね引きが関係する場合

デッキ枚数を増やすことで、特定のカード群の重ね引きが減る場合があります。

その重ね引きをどの程度メリットとして評価するかについては、前章で導入した \(\lambda\) を使用できます。

重ね引きをほとんど問題としないカードであれば、

\[ \lambda \]

は小さくなります。

一方、2枚目以降を強く嫌うカードであれば、

\[ \lambda \]

は大きくなります。

したがって、同じデッキ枚数変更であっても、

どのカード群を薄めることに価値があるか

によって評価は変わります。

デッキ枚数を増やすこと自体に価値があるのではなく、

その結果として望ましい手札が増えるかどうか

が重要です。

想定対戦数との関係

デッキ枚数を変更した結果、手札品質に数パーセントの差が生じることがあります。

この確率差そのものは、何戦しても変わりません。

しかし、本稿では、

その差を構築上どの程度重視するか

を想定対戦数 \(N\) によって評価します。

たとえば、

\[ \Delta=0.02 \]

という2パーセントの差があったとしても、

10戦程度しか使用しないデッキと、1000戦使用するデッキでは、その2パーセントに対して支払うべき構築上のコストは同じではないと考えます。

したがって、デッキ枚数の変更による改善幅についても、採用係数 \(k\) を用いて評価できます。

重要なのは、

40枚だから採用する、45枚だから不採用にする、という判断をしないこと

です。

デッキ枚数を変更した結果として生じる手札品質の差を計算し、その差を想定対戦数と構築上のメリット・デメリットに照らして判断します。

「何枚が正しいか」ではなく「変更によって何が起こるか」

本稿では、デッキ枚数について絶対的な最適値を設定しません。

40枚から41枚へ変更する場合も、

40枚から45枚へ変更する場合も、

60枚で構築する場合も、

評価方法は同じです。

見るべきものは、

  • 引きたいカードをどれだけ引けるようになったか
  • 引きたくないカードをどれだけ引かなくなったか
  • 重ね引きがどれだけ変化したか
  • 追加したカードによってどのような手札が増えたか
  • 望ましい手札集合 \(G\) の確率がどう変化したか
  • その改善幅を想定対戦数 \(N\) に対してどこまで重視するか

です。

したがって、本稿におけるデッキ枚数の考え方は、

「デッキは何枚にするべきか」を先に決めるのではなく、デッキ枚数を変更したことで生じるメリットとデメリットを評価し、その構築に適した枚数を選ぶ

というものです。

デッキ枚数もまた、カードの採用枚数や重ね引き評価と同じく、手札品質を調整するための構築パラメータの一つとして扱います。


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