デッキ構築のワークフロー

ここまで、手札品質、ハンドパターン、重ね引き \(\lambda\)、改善幅 \(\Delta\)、想定対戦数 \(N\)、採用係数 \(k\) について説明しました。

本章では、これらを実際のデッキ構築でどのような順序で使用するかを整理します。

なお、ここで示す手順の計算はすべて統合シミュレーターで行えます。複数のカード群によるハンドパターン、構築変更前後の比較などを手計算するのは現実的ではないため、本稿の理論を実際の構築で使用するための道具として用意しています。


基本的な構築手順

本稿における基本的なデッキ構築の流れは次のようになります。

手順
1 想定対戦数 \(N\) を決める
2 先手・後手など、評価する状況を決める
3 カードを役割ごとの群に分類する
4 どのような手札を望ましいとするか \(G\) を定義する
5 現在の手札品質 \(P(G)\) を計算する
6 採用枚数やデッキ枚数を変更する
7 変更後の \(P(G)\) を計算する
8 改善幅 \(\Delta\) を求める
9 想定対戦数 \(N\) に対する採用係数 \(k\) を確認する
10 メリットとデメリットを比較して最終的な採用枚数を決める

以下、この番号に沿って順に説明します。


1. 何戦戦うか

最初に、

そのデッキで何戦する予定なのか

を決めてください。本稿ではこれを想定対戦数 \(N\) とします。

本稿の理論では、採用枚数による数ポイントの確率差を、想定対戦数 \(N\) に対してどの程度重視するべきかを評価します。したがって、\(N\) を決めないまま、

  • 「この1枚を採用するべきか」
  • 「40枚と45枚のどちらがよいか」
  • 「初動率をあと2ポイント上げるべきか」

と議論しても、その確率差をどの程度重視するべきなのか判断できません。

たとえば、次のように設定できます。

使用状況 \(N\)
友人と10戦程度遊ぶデッキ \(10\)
大会などで50戦程度使用する \(50\)
マスターデュエルで1日5戦、20日間、3か月使用する \(300\)
長期間レート戦などで使用し、1000戦程度プレイする \(1000\)

同じ3ポイントの改善でも、10戦使用するデッキと1000戦使用するデッキでは、その差を構築上どこまで重視するべきかが異なります。

したがって、

確率差を議論する前に、まず評価する対戦範囲を決める。

これが本稿におけるデッキ構築の出発点です。


2. どの状況を評価するか

次に、

どの状況の手札品質を最適化するのか

を決めます。遊戯王では、先手と後手で求められる手札品質が異なります。

重要になるカード
先手 初動 / 貫通札 / 妨害を形成するためのカード
後手 相手ターン中に使用できる誘発 / 盤面を突破するためのカード / 自分のターンで使用する初動や貫通札

さらに後手では、自分の第1ターン開始時に6枚目をドローします。ただし、相手の第1ターン中に使用できるのは最初の5枚です。

そのため、

先手の初手5枚と、後手の6枚を完全に同じものとして扱うことはできません。

本稿の基本的な手札評価では、まずゲーム開始時に配られる5枚を基準とします。後手6枚目の価値や、先手・後手それぞれへの最適化については、必要に応じて別の条件として評価します。

また、サイドデッキを使用する大会形式などで先手・後手が分かっている場合には、そのゲームで想定される状況に合わせて手札品質を設定できます。


3. カードを群に分類する

次に、デッキ内のカードを役割ごとの群へ分類します。たとえば、

  • 初動札
  • 貫通札
  • 誘発札
  • 捲り札
  • 不純物

といった分類です。

この分類は、次の手順で「良い手札」の条件を書くための土台になります。

重ね引きを嫌うカードがある場合も、多くはこの段階で「2枚目も使えるカード」と「使えないカード」を別の群に分けることで表現できます。


4. 良い手札 \(G\) を定義する

分類したカード群を使って、プレイヤー自身が望ましい手札を定義します。たとえば、

  • 「初動を1枚以上引いている」
  • 「初動と貫通札を持っている」
  • 「初動を1枚以上持ち、不純物を引いていない」
  • 「初動1枚と誘発2枚以上を持っている」

など、自分が求める手札条件を設定します。

本稿では、この望ましい手札集合を \(G\) として扱い、\(P(G)\) を、その構築における手札品質の一つの評価値とします。

重要なのは、

何を良い手札とするかは、プレイヤーやデッキによって異なる

ということです。計算によって「良い手札」の定義が自動的に決まるわけではありません。まずプレイヤーが求める手札を定義し、その条件がどの程度の確率で発生するかを計算します。 ここでは素直に、自分が取りたい手札を決定すると良いでしょう。


5〜8. 構築変更前後を比較する

ここまで条件を決めたら、実際に構築を変更します。たとえば、

  • 初動札を7枚から8枚へ増やす
  • 誘発札を1枚減らして貫通札を1枚増やす
  • 40枚から44枚へデッキを増やす
  • 新しいギミックを追加する

といった変更です。

構築変更前の手札品質を \(P\_{\mathrm{before}}(G)\)、構築変更後を \(P\_{\mathrm{after}}(G)\) とすると、改善幅は、

\[ \Delta = P\_{\mathrm{after}}(G) - P\_{\mathrm{before}}(G) \]

です。重ね引きを \(\lambda\) で評価する場合には、必要に応じて実質改善幅を使用します。

ここで初めて、

その構築変更によって、実際に何ポイント手札品質が変化したのか

を確認できます。


9. 想定対戦数 \(N\) に対して判断する

改善幅を、最初に決めた想定対戦数 \(N\) に対して評価します。

本稿では、改善幅と \(N\) 戦における実現率のブレを比較するため、

\[ k = \frac{\Delta}{\sigma} \]

という採用係数を使用します。これによって、

この確率差を、自分が予定している対戦数においてどの程度重視するべきか

を判断します。


10. 最終的な採用判断

ただし、\(k\) だけで採用を自動的に決定するわけではありません。最終的には、

  • 他のカードを抜くコスト
  • 重ね引き
  • デッキ枚数
  • 新しく得られるギミック
  • 手札パターン全体への影響

などを含めて判断します。


補足:重ね引きを個別に評価する場合

重ね引きは、多くの場合は手順3のカード群分割で表現できます。「2枚目も使えるカード」と「使えないカード」を別の群に分ければ、\(G\) の条件としてそのまま扱えます。

そのうえで、特定のカードについて重ね引きを個別に評価したい場合には、\(\lambda\) を使用できます。

採用枚数を増減するカードについて、重ね引きをどの程度嫌うかを考えます。本稿ではこれを \(\lambda\) で表します。

重ね引きの評価 \(\lambda\)
重なってもほとんど問題ない \(0\)
2枚目も使えるが価値は落ちる \(0.5\)
2枚目以降をほぼ引きたくない \(1\)

といった形で、プレイヤー自身が設定します。

\(\lambda\) はカードに固定された値ではありません。

その構築において、自分が重ね引きをどの程度悪く評価するか

を入力するための変数です。 この\(\lambda\) を用いたツールもデッキ変更によるA/B手札品質評価ツールで実装しています。

必要であれば、この \(\lambda\) を使って重ね引きを考慮した実質改善幅を求めます。


シミュレーターについて

本稿の理論を実際のデッキ構築で使用できるよう、構築前後シミュレーターを作成しました。シミュレーターでは、本章で示した各種確率や構築変更前後の比較を計算できます。


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