デッキ構築のワークフロー
ここまで、手札品質、ハンドパターン、重ね引き \(\lambda\)、改善幅 \(\Delta\)、想定対戦数 \(N\)、採用係数 \(k\) について説明しました。 本章では、これらを実際のデッキ構築でどのような順序で使用するかを整理します。
デッキ構築前に、最初に決めること
何戦戦うか
最初に、
そのデッキで何戦する予定なのか
を決めてください。
本稿ではこれを想定対戦数、
とします。
本稿の理論では、採用枚数による数ポイントの確率差を、想定対戦数 \(N\) に対してどの程度重視するべきかを評価します。
したがって、\(N\) を決めないまま、
「この1枚を採用するべきか」
「40枚と45枚のどちらがよいか」
「初動率をあと2ポイント上げるべきか」
と議論しても、その確率差をどの程度重視するべきなのか判断できません。
たとえば、
- 友人と10戦程度遊ぶデッキなら \(N=10\)
- 大会などで50戦程度使用するなら \(N=50\)
- マスターデュエルで1日5戦、20日間、3か月使用するなら \(N=300\)
- 長期間レート戦などで使用し、1000戦程度プレイするなら \(N=1000\)
と設定できます。
同じ3ポイントの改善でも、10戦使用するデッキと1000戦使用するデッキでは、その差を構築上どこまで重視するべきかが異なります。
したがって、
確率差を議論する前に、まず評価する対戦範囲を決める。
これが本稿におけるデッキ構築の出発点です。
先手・後手のどこを評価するか
次に、
どの状況の手札品質を最適化するのか
を決めます。
遊戯王では、先手と後手で求められる手札品質が異なります。
先手では、
- 初動
- 貫通札
- 妨害を形成するためのカード
などが重要になります。
一方、後手では、
- 相手ターン中に使用できる誘発
- 盤面を突破するためのカード
- 自分のターンで使用する初動や貫通札
などが関係します。
さらに後手では、自分の第1ターン開始時に6枚目をドローします。 ただし、相手の第1ターン中に使用できるのは最初の5枚です。
そのため、
先手の初手5枚と、後手の6枚を完全に同じものとして扱うことはできません。
本稿の基本的な手札評価では、まずゲーム開始時に配られる5枚を基準とします。 後手6枚目の価値や、先手・後手それぞれへの最適化については、必要に応じて別の条件として評価します。
また、サイドデッキを使用する大会形式などで先手・後手が分かっている場合には、そのゲームで想定される状況に合わせて手札品質を設定できます。
どのような手札を「良い手札」とするか
次に、プレイヤー自身が望ましい手札を定義します。
たとえばカードを、
- 初動札
- 貫通札
- 誘発札
- 捲り札
- 不純物
などのカード群へ分類します。
そして、
「初動を1枚以上引いている」
「初動と貫通札を持っている」
「初動を1枚以上持ち、不純物を引いていない」
「初動1枚と誘発2枚以上を持っている」
など、自分が求める手札条件を設定します。
本稿では、この望ましい手札集合を
として扱います。
そして、
を、その構築における手札品質の一つの評価値とします。
重要なのは、
何を良い手札とするかは、プレイヤーやデッキによって異なる
ということです。
計算によって「良い手札」の定義が自動的に決まるわけではありません。
まずプレイヤーが求める手札を定義し、その条件がどの程度の確率で発生するかを計算します。
重ね引きをどう評価するか
次に、採用枚数を増減するカードについて、重ね引きをどの程度嫌うかを考えます。
本稿ではこれを、
で表します。
たとえば、
- 重なってもほとんど問題ないなら \(\lambda=0\)
- 2枚目も使えるが価値は落ちるなら \(\lambda=0.5\)
- 2枚目以降をほぼ引きたくないなら \(\lambda=1\)
といった形で、プレイヤー自身が設定します。
λはカードに固定された値ではありません。
その構築において、自分が重ね引きをどの程度悪く評価するか
を入力するための変数です。
必要であれば、このλを使って重ね引きを考慮した実質改善幅を求めます。
構築変更前後を比較する
ここまで条件を決めたら、実際に構築を変更します。
たとえば、
- 初動札を7枚から8枚へ増やす
- 誘発札を1枚減らして貫通札を1枚増やす
- 40枚から44枚へデッキを増やす
- 新しいギミックを追加する
といった変更です。
構築変更前の手札品質を、
構築変更後を、
とすると、改善幅は、
です。
重ね引きをλで評価する場合には、必要に応じて実質改善幅を使用します。
ここで初めて、
その構築変更によって、実際に何ポイント手札品質が変化したのか
を確認できます。
想定対戦数 N に対して判断する
最後に、改善幅を最初に決めた想定対戦数 \(N\) に対して評価します。
本稿では、改善幅と \(N\) 戦における実現率のブレを比較するため、
という採用係数を使用します。
これによって、
この確率差を、自分が予定している対戦数においてどの程度重視するべきか
を判断します。
ただし、\(k\) だけで採用を自動的に決定するわけではありません。
最終的には、
- 他のカードを抜くコスト
- 重ね引き
- デッキ枚数
- 新しく得られるギミック
- 手札パターン全体への影響
などを含めて判断します。
基本的な構築手順
以上をまとめると、本稿における基本的なデッキ構築の流れは次のようになります。
- 想定対戦数 \(N\) を決める
- 先手・後手など、評価する状況を決める
- カードを役割ごとの群に分類する
- どのような手札を望ましいとするか \(G\) を定義する
- 必要であれば重ね引き評価 \(\lambda\) を設定する
- 現在の手札品質 \(P(G)\) を計算する
- 採用枚数やデッキ枚数を変更する
- 変更後の \(P(G)\) を計算する
- 改善幅 \(\Delta\) を求める
- 想定対戦数 \(N\) に対する採用係数 \(k\) を確認する
- メリットとデメリットを比較して最終的な採用枚数を決める
計算について
ここまでの計算をすべて手計算するのは現実的ではありません。 特に、複数のカード群によるハンドパターン、重ね引き、構築変更前後の比較を同時に扱うと、計算量は急速に増えます。
そのため、本稿の理論を実際のデッキ構築で使用できるよう、統合シミュレーターを作成しました。 シミュレーターでは、本稿で扱った各種確率や構築変更前後の比較を計算できます。
具体的な操作方法については、理論本文とは分けて、別ページにまとめます。