まとめ
この記事がもたらす価値
本稿がTCG界にもたらした価値は、これまで「集合知」や「セオリー」という曖昧な言葉で片付けられていた、カードの採用枚数の決定プロセスを定量化したことにあります。
実測対戦数ではなく想定対戦数で評価する
「\(N\) 戦やった結果どうなった」ではなく、「\(N\) 戦ぐらいするから、この構築が妥当」という、有限回数の試行に対する評価ができるようになりました。
「自分が今後使う想定対戦数 \(N\)」に対して、採用枚数による数%差の「重さ」を判断することができます。
「その1枚の増減に価値があるか」を判断する
カードを「2枚から3枚に増やす行為」や「誘発を1枚削る行為」によって生まれるハンドパターンの数%の確率変動——改善幅 \(\Delta\)——が、自分の想定対戦数において意味があるのかを判断できるようになりました。
そのために、まずそのデッキで何戦するのか、\(N\) を決めます。そして、想定対戦数 \(N\) から求めた統計的なブレ \(\sigma\) と改善幅 \(\Delta\) を比較し、
という採用係数で評価します。
- 改善幅がブレに対して十分に大きいなら、その1枚の増減を重視する根拠がある
- 改善幅がブレに対して小さいなら、その枚数差に強く固執する必要はない
という判断ができます。
「どちらでもいい」も答えである
ここが重要です。
確率上は0.5%でも1%でも、優れている構築は存在します。しかし、そのデッキを実際に使用する対戦数に対して差が十分に小さいのであれば、
「そこはどちらでもいい」 「より優先すべき理由を採用する」
と一定の基準をもとに判断することもできます。
採用枚数に、もう迷わない
これまで、
- 「とりあえず3積み」
- 「なんとなく1枚でいい」
- 「初動札を引く確率が80%から82%になるから採用」
と雰囲気で決めていた採用枚数に対して、
- 自分がそのデッキで戦う回数(\(N\))
- 望ましい手札を定義したうえでの、構築変更による確率差(\(\Delta\))
を組み合わせることで、採用枚数を1枚単位で論理的に検討できるようになります。
そして重要なのは、必ずしも「一方が絶対に正しい」という結論だけが出るわけではないことです。計算した結果、
「この差なら、その確率差はどちらでもいい」
という結論が出ることもあります。これも立派な答えです。
数学によって最適化すべき場所だけでなく、最適化に拘らなくてよい場所まで見つけることができる。これも本稿の大きな価値だと考えています。
補足:重ね引きの評価
特定のカードについて重ね引きを個別に見たい場合には、「1枚目を引くメリット」と「2枚目を重ねて引くデメリット(\(\lambda\))」を天秤にかけ、実質改善幅を求められます。
\(\lambda\) を導入することで、人間的な「どれぐらい弱い」を数値化し、客観的な言語表現が可能となります。ユーザーの感覚と数字を簡単に橋渡しする概念です。
なお、重ね引きの多くはカード群の分け方でも表現できるため、これは基本的な構築評価に必須のものではありません。
最後に:計算機を手に入れたあなたへ
デッキ構築とは、運を天に任せるだけの作業ではなく、配られる手札の品質をコントロールする作業でもあります。
本稿では、
- 手札パターンの網羅
- 望ましい手札集合 \(G\) の定義
- 改善幅 \(\Delta\)
- 想定対戦数 \(N\)
- \(N\) から求める \(\sigma\)
- 採用係数 \(k\)
- (補足)\(\lambda\) による重ね引き評価
といった考え方を整理してきました。
そして、これらをすべて手計算するのは現実的ではないため、本稿のロジックを実際に使うためのシミュレーターを作成しました。
もう、感覚だけで枚数を決める必要はありません。
あなたの想定対戦数と、カードの性質を入力し、自分の構築における採用枚数を検討してみてください。
あとがき
個人的には、とても画期的な発想だったと思います。
コロンブスの卵ですね。
そのデッキで何試合するのか、試行回数を最初に決定した上で、手札品質について考える。
これだけです。
しかし、ここに行き着くにはかなり時間がかかりました。
昔から悩んでいました。
どれぐらい有利になるなら、そのカードを入れたらいいのか。
ということについてです。
1%有利になるなら入れるべきなのか。3%ならどうなのか。5%ならどうなのか。
確率そのものを計算することはできても、その差をどこまで重視するべきなのかについて、自分の中ではっきりした基準がありませんでした。
そこで、
「そもそも、このデッキで何戦するつもりなのか」
を先に決めればいいのではないか、と考えました。
想定対戦数 \(N\) を決め、手札品質の改善幅 \(\Delta\) と、その対戦数で生じるブレ \(\sigma\) を比較する。そして重ね引きについては、プレイヤー自身の評価を \(\lambda\) として計算に組み込む。
非常に単純な考え方ですが、自分としては筋の良いやり方だと思っています。
これによって、長い間疑問だった、
「どれぐらい有利になるなら、採用枚数を変える価値があるのか」
という問題について、一定の答えを得られたように思います。
また、これまでの採用枚数をめぐる議論についても、
「その差なら拘るべき」 「その差なら、どちらでもいい」
という形で整理できるようになりました。
少なくとも、自分の中では、長年悩んでいた採用枚数の問題にかなり説明がついたと思っています。
この理論を自分だけのものにしておくつもりはありません。使えそうだと思った部分があれば、誰でも自由に使ってください。デッキ構築に取り入れるのも、考え方を発展させるのも、それぞれの自由です。
ただし、この理論や計算結果をどう使うか、その結果については各自の判断と責任でお願いします。
この考え方が、少しでも多くのプレイヤーのデッキ構築に役立てば幸いです。
楽しいカード生活を皆で送りましょう。