まとめ
この記事がもたらす真の価値
本稿がTCG界にもたらした真の価値は、これまで「集合知」や「セオリー」という曖昧な言葉で片付けられていた、カードの採用枚数――1枚、2枚、〜10枚、あるいは0枚か――の決定プロセスを定量化したことにあります。
この記事を読むことで、プレイヤーは手札価値の観点から、以下の「枚数決定の基準」を手に入れることができます。
① 手札品質の基準
「1枚目を引くメリット」と「2枚目を重ねて引くデメリット(\(\lambda\))」を天秤にかけ、実質改善幅を求められるようになりました。
-
\(\lambda\) が低いカード(被っても強い)
重ね引きリスクが小さいため、採用枚数を増やすことを正当化しやすい。 -
\(\lambda\) が高いカード(被ると弱い・通常召喚権が被るなど)
2枚目以降の減点が大きいため、「1枚目を引くメリット」だけでなく、重ね引きまで含めて採用枚数を判断する根拠ができます。
つまり、
そのカードを増やしたとき、本当に手札品質は改善するのか
を、重ね引きまで含めて考えることができます。
② 「その1枚の増減に価値があるか」の基準
カードを「2枚から3枚に増やす行為」や「誘発を1枚削る行為」によって生まれる数%の確率変動――改善幅 \(\Delta\)――が、自分の想定対戦数において意味があるのかを判断できるようになりました。
そのために、まずそのデッキで何戦するのか、
を決めます。
そして、想定対戦数 \(N\) から求めた統計的なブレ \(\sigma\) と改善幅 \(\Delta\) を比較し、
という採用係数で評価します。
- 改善幅が想定対戦数から生じるブレに対して十分に大きいなら、その1枚の増減を重視する根拠がある
- 改善幅がブレに対して小さいなら、その枚数差に強く固執する必要はない
という判断ができます。
ここが重要です。
確率上は0.5%でも1%でも、優れている構築は存在します。
しかし、そのデッキを実際に使用する対戦数に対して差が十分に小さいのであれば、
「そこはどちらでもいい」
と数学的に判断することもできます。
③ 「引きたくないカード」があるときの採用枚数・デッキ枚数の基準
ギミックの都合上、デッキに素引きしたくないカードが混ざる場合にも、同じ考え方を使えます。
たとえば、
- メインの初動札を7枚から8枚に増やす
- 初動枚数を固定したままデッキ枚数を増やす
- 不要札を薄めるためにデッキを太らせる
といった構築変更です。
このとき、
- 初動率がどれだけ変化するか
- 重ね引きがどれだけ増減するか
- 不要札を引く確率がどれだけ下がるか
- その差が想定対戦数 \(N\) に対してどの程度の意味を持つか
を比較できます。
つまり、デッキ枚数についても、
「40枚だから正しい」「太らせたから間違い」ではなく、その変更が手札品質に何をもたらしたのか
という形で評価できます。
採用枚数に、もう迷わない
これまで、
「とりあえず3積み」
「枠がないから2枚」
「なんとなく1枚でいい」
「初動札を引く確率が80%が82%になるから採用」
と雰囲気で決めていた採用枚数に対して、
- 自分がそのデッキで戦う回数(\(N\))
- そのカードの重ね引きの弱さ(\(\lambda\))
- そのカードを増減させたときの確率差(\(\Delta\))
を組み合わせることで、採用枚数を1枚単位で論理的に検討できるようになります。
そして重要なのは、必ずしも「一方が絶対に正しい」という結論だけが出るわけではないことです。
計算した結果、
「この差なら、どちらでもいい」
という結論が出ることもあります。
これも立派な答えです。
数学によって最適化すべき場所だけでなく、最適化に拘らなくてよい場所まで見つけることができる。
これも本稿の大きな価値だと考えています。
最後に:計算機を手に入れたあなたへ
デッキ構築とは、運を天に任せるだけの作業ではなく、配られる手札の品質をコントロールする作業でもあります。
本稿では、
- 手札パターンの網羅
- \(\lambda\) による重ね引き評価
- 改善幅 \(\Delta\)
- 想定対戦数 \(N\)
- \(N\) から求める \(\sigma\)
- 採用係数 \(k\)
といった考え方を整理してきました。
そして、これらをすべて手計算するのは現実的ではないため、本稿のロジックを実際に使うための計算機を作成しました。
もう、感覚だけで枚数を決める必要はありません。
あなたの想定対戦数とカードの性質を計算機に入力し、自分の構築における採用枚数を検討してみてください。
あとがき
個人的には、とても画期的な発想だったと思います。
コロンブスの卵ですね。
そのデッキで何試合するのか、試行回数を最初に決定した上で、手札品質について考える。
これだけです。
しかし、ここに行き着くにはかなり時間がかかりました。
昔から悩んでいました。
どれぐらい有利になるなら、そのカードを入れたらいいのか。
ということについてです。
1%有利になるなら入れるべきなのか。
3%ならどうなのか。
5%ならどうなのか。
確率そのものを計算することはできても、その差をどこまで重視するべきなのかについて、自分の中ではっきりした基準がありませんでした。
そこで、
「そもそも、このデッキで何戦するつもりなのか」
を先に決めればいいのではないか、と考えました。
想定対戦数 \(N\) を決め、手札品質の改善幅 \(\Delta\) と、その対戦数で生じるブレ \(\sigma\) を比較する。
そして重ね引きについては、プレイヤー自身の評価を \(\lambda\) として計算に組み込む。
非常に単純な考え方ですが、自分としては筋の良いやり方だと思っています。
これによって、長い間疑問だった、
「どれぐらい有利になるなら、採用枚数を変える価値があるのか」
という問題について、一定の答えを得られたように思います。
また、これまでの採用枚数をめぐる議論についても、
「その差なら拘るべき」
「その差なら、どちらでもいい」
という形で整理できるようになりました。
少なくとも、自分の中では、長年悩んでいた採用枚数の問題にかなり説明がついたと思っています。この理論を自分だけのものにしておくつもりはありません。
使えそうだと思った部分があれば、誰でも自由に使ってください。
デッキ構築に取り入れるのも、考え方を発展させるのも、それぞれの自由です。
ただし、この理論や計算結果をどう使うか、その結果については各自の判断と責任でお願いします。
この考え方が、少しでも多くのプレイヤーのデッキ構築に役立てば幸いです。
楽しいカード生活を皆で送りましょう。