はじめに

本稿では、遊戯王におけるデッキの採用枚数をどのように決めるべきかを、確率と統計を用いて整理します。

「初動は何枚必要か」「このカードは2枚か3枚か」「デッキは40枚にすべきか」——採用枚数をめぐる議論は古くからあり、今も繰り返されています。

しかし、確率そのものは計算されていても、その確率差をどの程度重視すべきかという共通の基準は、あまり明確ではありません。結果として、個別に確率を計算したうえで、最後は経験則や感覚で採用枚数を決めることになります。

従来の採用枚数論には、主に次の3つの問題があると考えています。

  • そのデッキを何戦使用するのかという統計範囲が設定されていない
  • 数%の確率差をどこまで重視するかという採用基準がない
  • 構築そのものの評価と、最終的な勝率が混同されやすい

本稿では、これらを理論化し、計算によって検討します。特定のデッキでしか使えないものでは意味が薄いため、できるだけ一般化し、簡易に扱える理論を目指します。

対象は主として遊戯王ですが、「想定対戦数」「手札品質」「確率差の評価」という考え方には、他のTCGへ応用できる部分があります。


なぜ「手札品質」を評価するのか

遊戯王は、初手の構成がその後の展開に大きな影響を与えるゲームです。

プレイング、対戦相手、先攻後攻なども勝敗を左右しますが、そのなかでデッキ構築によって直接改善できるのは、最初に配られる手札の内容です。

ただし、ここで見るべきは単純な「初動率」だけではありません。

たとえば白き森デッキで、《白き森のシルヴィ/Silvy of the White Forest》を初手に3枚引いたとします。初動そのものは確保できていますが、理想的な手札とは言えません。5枚のうち3枚が同じカードで埋まっており、貫通札や妨害札の入る余地が減っているためです。

つまり重要なのは、

5枚の手札全体が、どの程度ゲームに貢献できるか

です。初動札、貫通札、妨害札、後攻札、そして引きたくないカードが、どのような組み合わせで手札に存在するか。これによって実際の手札の価値は変化します。

本稿では、この「5枚の手札全体としてどれだけ望ましい状態か」を手札品質と呼びます。


デッキ構築とは何をする作業か

本稿では、デッキ構築を次のように定義します。

採用するカードとその枚数を調整することで、望ましい手札を得られる確率を改善する作業

最終的な目的が勝率を高めることであるのは言うまでもありません。しかし勝率には、プレイング、対戦相手、環境、先攻後攻、相手側の事故など、デッキ構築だけでは決められない要素が数多く含まれます。

そこで本稿は、勝率そのものを構築評価に直接使いません。構築によって直接変化させられる手札品質を評価対象とします。


構築で変えられるのは「手札の確率」である

《白き森のシルヴィ》を2枚から3枚に増やせば、初手に引ける確率は上がります。同時に、2枚以上重ねて引く確率も上がります。

引けなければ展開できない。しかし複数枚引けば、手札の他の枠を圧迫する。それでも、引ける利益が重ね引きの不利益を上回るなら、3枚採用には合理性があります。

問題は、ここから急速に複雑になることです。

シルヴィだけでは初動枚数が足りないなら、《白き森のアステーリャ》《白き森のいいつたえ》《白き森の魔女》など、同じ役割を持つカードを追加することになります。すると考えるべきことは一気に増えます。

  • シルヴィを何枚入れるのか
  • アステーリャを何枚入れるのか
  • いいつたえを何枚入れるのか
  • それらを同時に引いた場合の価値はどうなるのか
  • 初動札を増やすために、何を減らすのか
  • その変更による手札品質の差は、実際に何戦するなら重視すべきなのか

単に「あるカードを引く確率」を計算しても、デッキ全体として良くなったかは判断できません。

そこで本稿では、カードを役割ごとの集合として扱い、手札全体の組み合わせとその発生確率を評価する方法へ進みます。


概論:想定対戦数を先に決める

同じ3ポイント差でも、対戦数によって重みは変わる

ある構築変更によって、望ましい手札を得られる確率が3%改善したとします。

この3%という数字そのものは、10戦使おうと1000戦使おうと変わりません。しかし、その3%を構築上どれだけ重視すべきかは変わります。

10戦しか使わないデッキなら、その差よりも優先すべき構築上の要素があるでしょう。一方、数百戦・数千戦と同じデッキを使うなら、小さな差も繰り返し影響するため、追求する価値は大きくなります。

同じ3%が、状況によって「無視してよい差」にも「詰めるべき差」にもなる。この違いを決めるのが、そのデッキを何戦使うかという想定対戦数です。

本稿の評価基準

そこで本稿では、デッキ構築を考える際に、まず

「そのデッキで何戦するのか」という想定対戦数 \(N\) を設定します。

そのうえで、採用枚数の変更によって手札品質がどれだけ変化するかを計算し、

想定対戦数 \(N\) に対して、その手札品質の差がどの程度の影響を持つのか

を、採用枚数を判断するための中心的な評価基準とします。

これにより、「何%の初動率が正しいか」「2枚と3枚のどちらが正しいか」という確率だけの議論ではなく、

その確率差を、自分がそのデッキを使う範囲において、他の構築要素より優先して追求する価値があるのか

まで含めて考えることができます。


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