はじめに
本稿では、遊戯王におけるデッキの採用枚数をどのように決めるべきかについて、確率と統計を用いて整理します。
カードの採用枚数についての議論は古くからあります。「初動は何枚必要か」「このカードは2枚か3枚か」「デッキは40枚にすべきか」といった議論は、現在でも繰り返されています。
しかし、確率そのものは計算されていても、その確率差をどの程度重視すべきなのかという共通の基準は、あまり明確ではありません。
その結果、多くの場合は個別に確率を計算し、経験則や感覚を組み合わせながら採用枚数を決定することになります。
本稿では、この問題について一定の判断基準を作ることを目指します。
対象は主として遊戯王ですが、ここで扱う「想定対戦数」「手札品質」「確率差の評価」といった考え方には、他のTCGにも応用できる部分があります。
なお、本稿でいう「デッキ構築」とは、主としてデッキに採用するカードとその枚数を決定することを指します。
従来の採用枚数論には、主に次の問題があると考えています。
-
そのデッキを何戦使用するのかという統計範囲が設定されていない
-
構築そのものの評価と、最終的な勝率が混同されやすい
-
数%の確率差をどこまで重視するかという採用基準がない
本稿では、これらについて理論化し、計算によって検討します。
なぜ「手札品質」を評価するのか
遊戯王は、初手の構成がその後のゲーム展開に大きな影響を与えるゲームです。
もちろんプレイングや対戦相手、先攻後攻なども勝敗に影響します。しかし、デッキ構築によって直接改善できるものの一つが、最初に配られる手札の内容です。
ここで重要なのは、単純な「初動率」だけではありません。
たとえば白き森デッキで、《白き森のシルヴィ/Silvy of the White Forest》を初手に3枚引いたとします。初動そのものは確保できていますが、だからといって理想的な手札とは限りません。
重要なのは、
5枚の手札全体が、どの程度ゲームに貢献できるか
です。
初動札、貫通札、妨害札、後攻札、そして引きたくないカードなどがどのような組み合わせで手札に存在するかによって、実際の手札の価値は変化します。
本稿では、この「5枚の手札全体としてどれだけ望ましい状態であるか」を手札品質として扱います。
そして、
想定する対戦数の中で、手札品質をどの程度改善する価値があるのか
という観点から、カードの採用枚数を考えていきます。
概論
本稿の基本的な考え方
本稿では、デッキ構築を考える際に、まず**「そのデッキで何戦するのか」**という想定対戦数 (N) を設定します。
そのうえで、カードの採用枚数を変更することによって手札品質がどの程度変化するのかを計算し、その差が想定する対戦数の中でどの程度重要なのかを評価します。
本稿の中心にあるのは、単純に
「確率が高い構築のほうが正しい」
とする考え方ではありません。
たとえば、ある構築変更によって望ましい手札を得られる確率が3%改善したとします。
この3%という確率差そのものは、10戦でも1000戦でも変わりません。
しかし、その3%を構築上どの程度重視するべきかは異なります。
10戦しか使用しないデッキであれば、その差よりも優先すべき構築上の要素が存在するでしょう。
一方、数百戦・数千戦と同じデッキを使用するのであれば、小さな手札品質の差であっても繰り返し影響するため、その改善を追求する価値は大きくなります。
したがって、本稿では、
想定対戦数 (N) に対して、改善した手札品質の差がどの程度の影響を持つのか
を、採用枚数を判断するための中心的な評価基準とします。
これにより、「何%の初動率が正しいか」「2枚と3枚のどちらが正しいか」といった確率だけの議論ではなく、
その確率差を、自分がそのデッキを使用する範囲において、他の構築要素より優先して追求する価値があるのか
まで含めて考えます。
デッキ構築とは
本稿ではデッキ構築を、
採用するカードとその枚数を調整することで、望ましい手札を得られる確率を改善する作業
と定義します。
ゲームにおける最終的な目的は、もちろん勝率を高めることです。
しかし、勝率にはプレイング、対戦相手、環境、先攻後攻、相手側の事故など、デッキ構築だけでは決定できない多数の要素が含まれます。
そのため、本稿では勝率そのものを直接構築評価に使用するのではなく、構築によって直接変化させることができる手札品質を評価対象とします。
構築で変えられるのは「手札の確率」である
たとえば、《白き森のシルヴィ/Silvy of the White Forest》を2枚から3枚に増やせば、初手に引ける確率は上昇します。
しかし同時に、2枚以上重ねて引く確率も上昇します。
引けなければ展開できない一方で、複数枚引けば手札の他の枠を圧迫する可能性があります。
それでも、そのカードを引くことによる利益が重ね引きの不利益を上回るのであれば、3枚採用するという判断には合理性があります。
ところが、実際のデッキ構築はここから急速に複雑になります。
《白き森のシルヴィ》だけでは初動枚数が足りないのであれば、《白き森のアステーリャ》《白き森のいいつたえ》《白き森の魔女》など、同じ役割を持つ別のカードを追加することになります。
すると問題は、
-
シルヴィを何枚入れるのか
-
アステーリャを何枚入れるのか
-
いいつたえを何枚入れるのか
-
それらを同時に引いた場合の価値はどうなるのか
-
初動札を増やすために、何を減らすのか
-
その変更による手札品質の差は、実際に何戦するなら重視すべきなのか
という複数の問題へ広がります。
単純に「あるカードを引く確率」だけを計算しても、デッキ全体として良い構築になったかどうかは判断できません。
そこで本稿では、カードを役割ごとの集合として扱い、手札全体の組み合わせと、その発生確率を評価する方法へ進みます。